インクルーシブ・サイト陶表現の現在

無数のコインや下着といった、世俗的でキッチュなイメージが覆う柱の形状が積み重ねられている。釉薬による漆黒の馬の前脚や尾もまた印象的だ。本作《Re edit /For New palace#3》は2010年に一度制作された作品に、新たに柱の一部が交換されており、作品自体もまた作家の手で「再編集(Re edit)」されている。桑名紗衣子がこれまで試みてきた陶表現における型取りは、コピー&ペーストといった現代社会での膨大な情報の複製性とも繋がり、桑名の作品は同時代性を獲得してきた。

一方で、この10数年の時間の経過は、作品にある変化をもたらしている。その背景には、公共の場所への自身の作品設置や、あるいは家族が増え、プライヴェートな空間での思い出といった桑名の経験が関係しているようだ。「再編集」というテーマには、時間の流れの中で、取りこぼされていくものをどう扱うかという作家の意識が強く反映されている。それら柱の作品にみられる、写真家のエドワード・マイブリッジがかつて連続写真に収めた馬の動勢、さらには会場であるさや堂ホールの扉や柱といった建築的意匠の作品への取り込みには、人間の記憶や、過去の歴史の記録に接近しようとする作家の造形思考が明白にあらわれている。

陶表現に欠かせない炉での作品の焼成は、作家の手を離れ、他者に制作を委ねる他律的な行為である。そして、それは桑名にとって、高温による熱が炉内の全てを複合化させるという意味を持つ。長い年月をかけて凝固した小松石を再度溶かし、あるいは割れた陶製の鶏の頭部を丁寧に復元する独自の制作手法には、忘れ去られていく大切な何かに対し、映像の巻き戻しを試みるような不可逆的な時間への記憶/記録的具象化の手触りが感じられる。

千葉市美術館 学芸課
森 啓輔