Artist Statement – 2023/04/14 –

境界に立つあなたへ

私の作品群は多岐に渡るが、少し強引にひとつの文章で括ると情報社会と呼ばれる現在の生活圏と、「やきもの」と「彫刻」という領域を自分なりに解体し再解釈する事で、ひとの重層的な知覚感覚を具象化してきた。

some float(2010~)では、端末を通して情報の表層のみを視覚する事について。object(2012~)では、美術史や儀式慣例の中で見られてきた事物と対峙し、知覚する事について。最近の課題であるtimeleap(2020~)では、陶土や石の持っている特性を手掛かりに、巻き戻ったり、進んだりする「時間について」や、時間によって同時多発的に起こっている事物へ触れる事が出来る可能性について表現している。

自身の制作の中でよく使われる、粘土や石膏で型を取る技法は、伝統的でベーシックなプロセスではあるが、私にとっては型取られたかたちの成り立ち等の背景までをも抽出し、記録/保持する大切な意味合いを持っている。一方で、粘土という手を加えなければ具象化しない、かたちを持たないゼロの状態から、作者が、社会環境からの影響を秘めた意思を持ってかたちを与え、彫刻という存在100の状態までの持っていく為の、適切な塑像方法についても実験を続けている。そして、それらのかたちを無理なく、あからさまに存在させる為に、焼成したり、編集したり、積んだりを繰り返して試行錯誤している。特に「やきもの」として焼成する行為は、具象化することでどうしても現実に存在してしまうかたちを、他律的に抽象化したり、形而上学へと差し戻す行為として捉えている節がある。

私の足元には、文化・芸術といった人の営みの中で蓄積されていくものと、生きる事でキャッシュデータのように、とりこぼしていくもの双方が広がっており、ふとした要因で一時的にその有り様を空間を含め、保持する手段として「彫刻」があるように思う。多様な概念の領域の境界に立ち、掴めぬものにかたちを見出そうと意識を飛ばす行為は、どこか、他者への思いやりと似ているように思う。

桑名紗衣子

タイトル/
境界に立つあなたへ /桑名紗衣子著 ,2023
概要/
翻訳/丸井朋子