YAKIMONO ワークス
“For New Palace”

青い滝の絵が入った豪奢な金の額縁が壁に掛かっています。その左には梱包材でぐるぐると包まれた ミロのビーナスらしき像、右には頭をもたげたトラの置物・・・と言いたいところですが、すべてに違和感が あります。桑名紗衣子は、私たちが抱いているビーナスやトラの置物のイメージに、いくつものイメージを 十重二十重に積み重ね、見ているものへ問いかけてきます― あなたの知っているもの、見ているもの は本当にそうなのでしょうか?
大学で彫刻科だった桑名紗衣子は、2008 年頃からセラミックを素材に作品をつくり始めます。 桑名がものをつくる考え方― イメージをつぎ込み、そこから関係性による変化を実感する―に 成形、 乾そう、焼成、釉薬、窯変と、土が変容していくやきものの制作過程がぴったりとはまったといいます。大 学在学中には、長崎県の波佐見町でやきもの修行をし、土や釉薬の扱い方を身につけました。
やきものでつくられた桑名の作品は、ひとつひとつ石造と見まごう重厚さや、中世の美術品のような美 しい古色を釉薬や上絵、土の質感でリアルに再現させて魅力的です。 が、なによりもモチーフが重層的に重なって関係しあい、派生していくところにその特徴はあります。 「windows08」シリーズでは、キリスト教会の窓枠に、北斎や広重の浮世絵を組み合わせました。インター ネットを通して日本文化を知る現象への興味から始まって、さらに滝信仰や自分の好きなカーテン、装飾 などが自らのフィルターを通して加わり、オリジナルに変化しています。
「ツバメ滝」「Venus de Milo」「Tiger」の三点で構成された“まがいものの美術”は、パーツを入れ替えて “私の系統樹”へ移り変わり、また繋がっては別のストーリーを語り出します。 高校時代には油絵を描き、大学では彫刻を専攻し、そしてやきものを表現手段にと、ボーダーレスに制作 を広げていくことには自由さと同時に不自由さも介在していることでしょう。 今展では、新作を含めて、神殿をイメージした世界を展示する予定です。桑名のユニークな世界をぜひ会場でご覧ください。

担当:長谷川英子、大橋恵(インタビュー)/INAX文化事業部(現 LIXILギャラリー)
掲載元:LIXILギャラリー  https://livingculture.lixil.com